長く日本女子サッカー界を牽引してきた岡山湯郷Belleの南山千明選手が、第15節をもって現役を引退することを発表した。
そのため、美作で行われるホームゲームとしては、この第14節が南山選手にとって最後の一戦となった。
相手はスフィーダ世田谷FC。
前回対戦では、湯郷がビルドアップを徹底的に狙われ、低い位置でボールを失う場面が目立った。結果は0-5の大敗。チームとして、どのように修正するかが問われる再戦だった。
前回対戦のレビュー
第3節:スフィーダ世田谷FC 5-0 岡山湯郷Belle
今節の湯郷は、前回の反省を明確にピッチ上で表現した。
最終ラインから丁寧につなぐことに固執せず、縦への意識を強めることでリスクを回避。高い位置まで運んでからパスワークを発揮した。
守備でも、内田美鈴、堀江美月を擁する世田谷の強力な前線に対して粘り強く対応。最後まで集中を切らさず、2-0で前回対戦の悔しさを晴らす勝利を手にした。
この記事の要点
- 岡山湯郷Belleは前回対戦で狙われたビルドアップへの固執を避け、縦に速い攻撃で世田谷のプレスを回避した
- 上野理佐、岸波優妃、森宙舞を中心とした守備陣が、内田美鈴、堀江美月に自由を与えずクリーンシートを達成した
- 今野瞳、沖田有由の得点で湯郷が2-0勝利。後半戦3連勝で勝点を23に伸ばした
試合情報
試合展開
湯郷はリスクを抑え、世田谷のプレスを外す
立ち上がりにボールを持つ時間が長かったのは世田谷だった。
右サイドでは#8加藤沙彩、#2根本彩夏の縦関係から前進を狙い、前線では#13内田美鈴、#9堀江美月が起点になろうとする。
しかし、湯郷の守備は前回対戦とは違った。
センターバックの#20岸波優妃と#2森宙舞が、内田と堀江に対して球際で強く対応。簡単に前を向かせず、ゴールに近い位置で自由なプレーを許さなかった。

右サイドからの攻撃に対しても、#10中野琴音が早い寄せとコースを切るポジショニングで対応。世田谷にクロスを簡単に上げさせない守備を見せた。
湯郷はボールを奪う位置こそ低めだったが、そこからの判断が速かった。
最終ラインで無理につなぐのではなく、縦パスやロングボールを使って、前線の#14塩谷瑠南、#24岸波美采に届ける。そこから中盤より前で細かくつなぎ、少ない手数で相手ゴールへ迫る形を作った。
前回対戦で狙われた「低い位置のビルドアップ」を避けたことで、世田谷としてはプレスのかけどころをつかみにくい展開になった。
上野理佐のビッグセーブが流れを渡さない
最初に大きな決定機を作ったのは世田谷だった。
#15篠原沙耶のクロスから#9堀江美月がゴール前で収め、走り込んだ#16北川心子へつなぐ。北川のシュートは枠を捉えたが、湯郷GK#31上野理佐が外へ弾き出すビッグセーブを見せた。
この場面では、#19沖田有由が最後まで北川に身体を寄せ、シュートコースを限定したことも大きかった。
先に失点していれば、湯郷にとって難しい試合になっていたはずだ。上野のセーブと周囲の粘りが、試合の流れを世田谷に渡さなかった。

今野瞳の先制点。守備から攻撃参加までがつながる
均衡を破ったのは湯郷だった。
世田谷が前線の#9堀江美月へ入れようとしたボールに対し、#20岸波優妃が身体を張って対応。こぼれたボールを#24岸波美采が拾い、右サイドからペナルティエリア内へ侵入する。
岸波美采が世田谷DFを引きつけると、中央にスペースが生まれた。
そこへ走り込んでいたのが、センターバックの#4今野瞳だった。
岸波美采からのラストパスに、今野が右足ワンタッチで合わせてゴール。湯郷が先制に成功した。
岸波優妃の守備、岸波美采の仕掛け、そして今野の攻撃参加。
守備から攻撃への切り替えと、選手の判断が噛み合った見事な先制点だった。
世田谷の2トップを封じ、湯郷が前半をリードで折り返す
追いつきたい世田谷だったが、なかなかペースを上げられなかった。
#9堀江美月に対しては#20岸波優妃が厳しく対応。低い位置でターゲットになる場面はあっても、ゴールに直結するエリアでは自由を与えなかった。
#13内田美鈴に対しても、#2森宙舞が粘り強く対応した。
内田、堀江の2人は、なでしこリーグ1部でも屈指の得点力と個の強さを持つ存在である。それでも湯郷守備陣は、背後を取らせず、前を向かせず、シュートまでの時間を与えなかった。
湯郷にも、コーナーキックから#14塩谷瑠南のヘディングがクロスバーを直撃する場面があったが、追加点は生まれなかった。
前半は湯郷が1点をリードして折り返した。

左サイドの連係から沖田有由が追加点
後半、1点を追う世田谷は縦への意識を強めた。
両サイドバックも積極的に攻撃参加し、湯郷を押し込もうとする。ただ、湯郷の守備ブロックは崩れない。
次にゴールネットを揺らしたのも湯郷だった。
左サイドで世田谷のスローインを岸波優妃がカット。#25香椎彩香が関与し、#30松崎こころから塩谷瑠南へボールが入ると、塩谷が仕掛けながら低いクロスを送る。
中央では#9栫井美和子がボールをスルー。その背後に走り込んでいた#19沖田有由が、#15篠原沙耶との競り合いを制し、右足ワンタッチで押し込んだ。
岸波優妃、香椎彩香、松崎こころ、塩谷瑠南、栫井美和子、沖田有由が連動した追加点。
前回対戦で苦しんだ湯郷が、今度は高い位置でのボール奪取とパスワーク、そして判断の共有によって、世田谷の守備を崩した。

世田谷は反撃も、最後まで湯郷の壁を崩せず
2点を追う展開となった世田谷は、さらに前への圧力を強める。
失点直後には、#13内田美鈴がターンで相手を外し、#17青木菜羽へスルーパス。青木がGK上野理佐との1対1を迎えたが、左足のシュートはクロスバーに嫌われた。
この場面は、世田谷にとって最大の決定機だった。
終盤にはセットプレーからゴール前で混戦を作り、内田がこぼれ球に足を伸ばす場面もあった。しかし、上野を中心とした湯郷守備陣が最後まで身体を張り、ゴールを割らせなかった。
湯郷は終盤、南山千明もピッチに送り出した。南山にとって、美作での最後のホームゲーム。その試合をチーム全員で守り抜き、2-0で勝利を飾った。

総括
岡山湯郷Belle
湯郷にとって、この試合は単なる勝点3以上の意味を持つ勝利だった。
前回対戦では、最終ラインからのビルドアップを世田谷に狙われ、低い位置でボールを失う場面が目立った。結果は0-5。内容面でも、チームとして大きな課題を突きつけられた試合だった。
しかし今節は、その反省が明確に表れていた。
ビルドアップへのこだわりを一度整理し、縦に速く運ぶ。パスワークは低い位置ではなく、中盤より前で発揮する。リスクを抑えながら、自分たちの良さを出す場所を変えたことが、勝利につながった。
守備面では、岸波優妃と森宙舞の対応が非常に大きかった。
内田美鈴、堀江美月という強力な前線に対して、強度で引かず、身体を張って対応した。ゴール前で自由を与えなかったことで、世田谷の攻撃に最後の怖さを出させなかった。
攻撃では、塩谷瑠南の存在感が今節も際立った。
前線で起点になり、空中戦でも強さを見せ、追加点の場面では左サイドから決定的なクロスを供給した。岸波美采も鋭いドリブルで世田谷守備陣に圧力をかけ続け、今野瞳の先制点につながるラストパスを供給した。
シーズン後半戦に入ってからの湯郷は、戦い方の整理が進んでいる。
第12節から3連勝。そのうち直近2試合はクリーンシートだ。勝点を23に伸ばし、6位を維持した。
今後さらに上を目指すためには、ボールを奪う位置をもう少し高めたい。中盤でのプレスのかけ方、コースの切り方が整理されれば、ショートカウンターと高い位置でのパスワークはさらに活きてくるはずだ。
スフィーダ世田谷FC
世田谷にとっては、前回対戦の再現が難しい試合になった。
湯郷が低い位置でのビルドアップを減らし、縦に速い攻撃を選択してきたことで、前線からのプレスをかける場所が定まらなかった。
前回は相手のミスを誘い、良い位置でボールを奪いながら試合を進めることができた。しかし今節は、湯郷がそのリスクを消してきたため、世田谷の強みを出しにくい展開になった。
それでも、内田美鈴と堀江美月の存在感はあった。
相手DFに厳しく対応されながらも、身体の強さを使ってボールを収め、シュートやラストパスにつなげる場面を作った。青木菜羽の決定機も、内田のターンとパスから生まれたものだ。
ただ、チーム全体としては攻撃のテンポが上がり切らなかった。
強度の高い相手に対して真っ向からぶつかる試合では、世田谷のハードワークと推進力は大きな武器になる。一方で、相手が割り切ってリスクを抑え、真正面からぶつかってこない展開になった時に、どう主導権を握り返すか。
ここは今後の課題になりそうだ。
相手によって戦い方を変える柔軟性は必要である。そのうえで、どの試合でも揺らがないチームとしての決め事を再確認できれば、内田、堀江を中心とした得点力はさらなる強みになるはずだ。
順位表
第14節終了時点で、岡山湯郷Belleは勝点を23に伸ばし、6位を維持した。
スフィーダ世田谷FCは勝点16のまま。ASハリマアルビオンに順位で上回られ、8位に後退している。
湯郷は中位から上位をうかがう位置へ。世田谷は混戦の中位グループで踏みとどまるためにも、次節の結果が重要になる。
| 順位 (前節) | チーム名 | 勝点 | 試合数 | 勝 | 分 | 負 | 得点 | 失点 | 得失点 | 過去5試合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1(2) | 朝日インテック・ラブリッジ名古屋 | 31 | 14 | 9 | 4 | 1 | 37 | 12 | +25 | |
| 2(1) | 静岡SSUボニータ | 29 | 14 | 9 | 2 | 3 | 40 | 10 | +30 | |
| 3(3) | ヴィアマテラス宮崎 | 28 | 14 | 8 | 4 | 2 | 28 | 15 | +13 | |
| 4(4) | オルカ鴨川FC | 25 | 14 | 7 | 4 | 3 | 19 | 10 | +9 | |
| 5(5) | 伊賀FCくノ一三重 | 25 | 14 | 7 | 4 | 3 | 17 | 11 | +6 | |
| 6(6) | 岡山湯郷Belle | 23 | 14 | 7 | 2 | 5 | 21 | 21 | 0 | |
| 7(10) | ASハリマアルビオン | 16 | 14 | 4 | 4 | 6 | 15 | 16 | -1 | |
| 8(7) | スフィーダ世田谷FC | 16 | 14 | 4 | 4 | 6 | 22 | 24 | -2 | |
| 9(8) | 愛媛FCレディース | 16 | 14 | 4 | 4 | 6 | 15 | 27 | -12 | |
| 10(9) | ニッパツ横浜FCシーガルズ | 15 | 14 | 4 | 3 | 7 | 23 | 27 | -4 | |
| 11(11) | 日体大SMG横浜 | 10 | 14 | 3 | 1 | 10 | 13 | 44 | -31 | |
| 12(12) | VONDS市原FCレディース | 0 | 14 | 0 | 0 | 14 | 6 | 39 | -33 |
次節に向けて
次節、岡山湯郷Belleはアウェーで愛媛FCレディースと対戦する。
前回対戦は0-0のスコアレスドロー。湯郷はシュート1本に抑えられ、攻撃面で苦しんだ試合だった。
ただ、今の湯郷は前半戦の湯郷とは違う。
縦への速さ、高い位置でのパスワーク、守備の粘り。後半戦で整理されてきた戦い方を、南山千明のラストゲームとなる第15節でも発揮したい。
スフィーダ世田谷FCは、ホームにニッパツ横浜FCシーガルズを迎える。
前回対戦では、後半アディショナルタイムに勝ち越し点を許して敗れた。ニッパツのスピードある前線をどう抑えるか。そして、内田美鈴、堀江美月を中心とした攻撃陣がどれだけゴール前で違いを作れるか。
中位争いを抜け出すためにも、勝点3が欲しい一戦になる。
リソース
フルマッチLIVE配信
第14節全試合ハイライト動画
公式記録

